痴話喧嘩の果てに、モカシンシューズを雑に扱った女に対して、ザックはゆっくりと言った。
「オマエとはこれっきりだ」
落ち着きなく勤め先を点々とするザックに業を煮やしたパートナーは激しく当たる。
既にお気づきの方もいると思うが、これは不朽の名作「ダウン・バイ・ロー」の冒頭である。
ジャームッシュ作品の中でも、僕が最も好きで事あるごとに鑑賞する一本だったりする。
ジョン・ルーリーも素晴らしいが、やっぱりトム・ウェイツの芝居が好きだ。
この時はまだ、動きは二流で喋れば一流という未完成なお芝居だったが、それがまたいい。いや、それこそが至高なのだ。
粗筋を一行でまとめるなら、「三人のマヌケが男が織りなす、リアリティーのない逃亡劇」だろうが、僕にとってはそれ以上のシンパシーを覚えた作品なのだ。
※※※
実は、トムもとい、この作品のザックと同じ様な時期が僕にもあったのが大きいかもしれない。
ザックは腕利きのディスク・ジョッキーだったが、世渡りが下手なのと飽きっぽい質がネックとなり、方々のラジオ局を転々とする。僕もまたザックと同じように、いくつかの編集部を同じ様な理由で彷徨ったものだ。
腕はいいが気が短い。
企画もライティングも色々な方から褒めて頂いたし、20代にして数々の賞も貰った。
でも、同じ釜の飯を食う同胞達に納得がいかなかった。
ヌルい企画に下手くそな記事。
使うモデルは三流で、誌面にはクリエイティビティーの欠片も見られなかった。
当時はよく、彼女にも言われたっけな。
「もっと我慢しなきゃダメよ! 私との将来をどう考えているの??」
ってな具合に。
無責任でだらしないが、職人としてはピカイチ。
そんな自分が少し好きだった時期もあった。
まあ勘違いなんだけどね。
だから、節目節目でこの作品を観ることが多かった。
ザックが彼女を捨てたように、僕もまた彼女を捨てようとしている。
無責任な自分に戻りたいのか、才能に自信がないのかはわからない。
でもやはり、水平線を眺めるみたいな暇な時間を美意識だけで善しとするオッサンに成り下がるのは嫌なのだ、
ありのままの自分でいたい。
アナ雪みたいだがw
こんな自分を愛してくれる人と結ばれたいものだ。
格好つけて規律正しく生きようと努力する自分なんかまっぴらだ。
それを教えてくれた「ダウン・バイ・ロー」を観ながら、今宵もAEONオリジナル発泡酒500缶を呑んでいるという訳だ。
どなた様も素晴らしい夜を。
ちゃんと避妊しろよ。
アイスクリーム!!!!!!!
へば。