昨晩の事だ。
仕事を終え、満員電車に揺られながら自宅付近の駅で降りた。それはまあいつもの事なのだけど、電車から降りて長い階段を降りようとした刹那、階下に見慣れない風景が広がっていた。
駅員を含めた十数名が、階段の下で何かを囲う様に集まっている。
一瞬にして何があったのかを悟り、出来るだけその光景を見ない様に務めていた。
この事なかれ主義め! と背中を指されそうだが、年齢を重ねる度に火中の栗を見過ごす体質に変わってきており、何かと面倒な事から距離を置こうと努める様になった。まあそれはどうでもいい。
話を続けよう。
階段を下っていくと、徐々にその様子がリアルに映り、痺れを切らして見つめた先には、群衆の中心に50代半ばと思わしき男性が倒れていたのである。
酔っていたのかどうかは不明だが、階段から落ちたのは明白だった。
男性はピクリとも動かなかったが、顔色を見て亡くなってはいない事が分かった。とは言え、地面に頭を打った格好で倒れていたにも関わらず、出血していないあたりが非常に気になった。
その時、群衆の一人が「ちょっと別の場所に寝かしましょうか?」と提案し、その声に動かされる様に他の数名がアクションを起こした。
思わず声を上げそうになったが、一人の女性が瞬時にそれを止めた。
「動かさないで!!」
そう、脳出血している可能性がある以上、無暗に動かしてはいけないのだ。
きっと彼女は医療関係者なのだろう。
心拍やら脈やらを確認し始め、駅員に何やら指示を出していた。
こんな時、矢面に立って行動できるその女性に感服すると同時に、自分が下手に声を上げなくてよかったと思った。
人の命に関わる事に、素人が首を突っ込んではいけない。
とにかく男性が無事である事を祈るばかりだ。
それを受けて、ひとつ思う事がある。
用心に用心を重ねる事は、決して過剰防衛ではない。
何故なら誰しも、いつ何があって、命がどうなるかなど分かる事ではないからだ。
何故なら誰しも、いつ何があって、命がどうなるかなど分かる事ではないからだ。
偽善的に聞こえるかもしれないが、いつ果てるかもわからない命ならば、せめて後悔の無い様に毎日生きていかなければと、強く思うのだ。
人に優しく自分に厳しく、そして何より人を大切にしていかなければならないなと。
何より自分をもっと大事にしてあげないといけないなとも思った。
毎日欠かさず飯を喰らい、欲望に素直に行動する。
クソみたいな毎日を生き続けるご褒美として、それくらいは許してあげるべきなのだろう。
明日も変わらず命がある事を祈るばかりだ。